話を聞いた人
川村 純史(かわむら よしふみ)
![川村 純史(かわむら よしふみ)](https://okawafk.or.jp/wp/wp-content/uploads/2019/11/mokusei01-1.jpg)
1949年大川村生まれ。近畿大学 理工学部 建築学科卒業。在学中、故・岡本太郎さんの仕事に関わり、「これからはデザインの時代になる」と言われたのがきっかけで、建築の道ではなくグラフィックやインテリアデザインの業界に転向。複数のデザイン事務所を経て、1980年に大川村へUターン。家業であった林業を継ぎ、1984年にオーダーメイド家具を製造する「木星会」を立ち上げる。1985年に、協同組合 木星会代表理事に就任し、現在も代表を勤めつつ、様々なワークショップイベントなどの講師として活躍中。 両手に持っているのは、自作のクワガタとカブトムシ。
日本一秘境にある、家具のショールーム?
「大川村には、木星会の川村さんというおもしろい人がいる」
「なんと、あのジブリのお店の内装にも関わった人らしいよ」
そんな話を聞いたら、実際に行かずにはいられないのが掘削魂。
トトロどころか、もののけまで出てきそうな気配のある、ここ大川村で、オーダーメイドの家具作っているとかいないとか。ことの真相を確かめに、車を走らせ、木星館へいってきた。
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大川村役場から、車を走らせること10分――。「木星館」の看板が現れた!
更に道を進んで行くと……
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……ん? ショールーム? 年季の入った倉庫にしかみえないが、看板を信じて進んでみる。
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大きな材木が所狭しと置かれていて、製材所に来たみたい。 勇気を出して敷地内を進んで行くと……
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看板に間違いはなく、敷地の奥まで進んだところに、ちゃんとショールームは存在した。中に入ると、「こんにちは」と、ひとりの朗らかな男性が出迎えてくれた。噂の川村さんだ。
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説明するためにと、資料を準備して待っててくれた
川村さん。
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外観も内観も、天井から床まで、木、木、木。
わー、天井も高くて、窓も多くて、開放感! そして、木の香りがすごいですね!
ここにはね、とっておきの場所があるんですよ。
まぁまぁ、まずはそちらへご案内しましょう。
この扉から外へどうぞ。
まずは川遊び。家具は“ついで”でもいい
川村さんに案内されるがまま、扉から外へでると、そこにはゆるやかな曲線を描く広めのバルコニーがあり、すぐそばを大北川の透き通った青色の水が流れていた。
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大北川が目の前! 川まで降りることもできる。流れも緩やかで、川遊びにもってこいなロケーション。
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川村さんは、川へおりて大きな岩の上で本を読んだり、考え事をする時間が至福なのだそう。
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目の前には、緑の壁。川床のような広々としたバルコニー。ひんやりとした空気と川のせせらぎや、風の音がここちよい。
贅沢なロケーションですね! 季節によって、また違った景色が楽しめそう。
ここは家具のショールームだけど、家具は“ついで”でもいいんです。
お客さんには、この自然を感じてもらうのが一番。
ここはいわば、プライベートリバーなのでね。
ぜひ川遊びをしてもらいたい。
子供も大人も、自然に触れ合う機会が少なくなっているでしょう?
木で家具作りをしている身としても、
まずはみんなに、自然や木が生み出す心地よさを、体感してもらいたいんです。
なるほど。この自然にあふれた場所で、どんなものが作り出されているのか、
ますます楽しみになってきました!
ひとつの思いつきから生まれた「木星会」
改めて、ショールームの中を案内してもらうことに。
木星館にある家具はいずれも、なんというか、有機的な印象だ。素材が木なので、当たり前といえば当たり前なのだが、加工してもなお、木が生きているように見えるのだ。
節のない、歪みのないものが美しいとされる木材だが、節や木の色味の違い、曲がりを活かして作られた木星館の家具には、血が通っているような温かみに溢れている。
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ショールームの中でも目を惹く、キリン棚。椅子は、キリンにまたがるように座って使うもの。
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大木を活かした迫力のあるキッチンテーブル。
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夜空を眺めているときにアイディアが浮かんだという、月のテーブルは、見た目の可愛さもさることながら、実際に座って使ったときの足の置き場なども理にかなっていて、心地よさが光る。
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シンプルな図形で構成された棚は、おとなになっても使い続けたい逸品。
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大きな葉っぱ型のテーブル。バラバラの椅子に囲まれて、なんだか楽しげ。
どの家具もユニークで、見ているだけでも楽しいです。
ちなみに「木星会」では、もともとこういった家具を作っていたのですか?
木星会の前身は、林業会社でした。
かつての大川村は、林業が盛んだったからね。
なぜ、家具をつくることに?
ある日、道端に捨てられている曲がり木を眺めていたら、ピンときてね。
「これで椅子を作ったら、どうなるだろう」って。
チェーンソーとヤスリがけさえできれば、作れる代物だったんだけど、
試しに組合の仲間たちと作って売り出してみたら、思いの外好評で。
元々は自分たちの小遣い稼ぎ程度に考えていたんだけど、
それじゃ追いつかないくらいに、注文が来るようになってしまった(笑)。
それで木星会を設立して、杉材で他にも家具を作るようになったんだね。
大学は建築学部だと伺いましたが、家具作りはそこで学んだのでしょうか。在学中に実習で岡本太郎さんの事務所で働いたというのも、気になります……!
まさか、学生時代にあの岡本太郎先生の仕事に携われることになるとはね……。
当時は大阪万博の準備真っ最中で、僕が実習でお世話になった会社が「太陽の塔」の建設を担当していたのね。
あの時、太郎先生に
「君たち、これからは建築よりもデザインの時代になるぞ」
と言われたのは大きかった。
それがきっかけで、グラフィックや内装デザイン業界に転向して
デザイナーとして忙しくも働いて、自分の人生を見つめ直したり、
海外を放浪した経験も、今に活きているのかもしれない。
大学で建築を勉強していたけれど、
木のことは、Uターンして林業会社で働き始めてから、よ〜く勉強しました。
家具で、解決できることがある。
オーダーメイドが基本だという、木星会の家具。いったい、どんな人からの、どんな要望によって生み出されているのだろうか。
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川村さんのスケッチが、そのままカタログになっている。
家具をつくるときに、心がけていることはありますか?
そうですねぇ……“想像的な商品をつくること”でしょうか。
使う人が商品を見て、何かを思い起こせたり想像できるのは
夢があって楽しいじゃないですか。
あとは、僕やお客様が「こんなものがあったら便利だな」と思えるもの。
うちは基本的に受注生産だから、
お客様の要望で臨機応変に大きさや仕様を変えて作れますからね。
この前は、村の先生からの注文で、
テーブルの中央でバーベキューができる
ダイニングテーブルを作りましたね。
バーベキューができるテーブル! 変わった注文が入るんですね(笑)
大川村で使われている、木星会家具シリーズ
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学校の随所で、木星会の家具や什器が活躍中。
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元・大川村先生だった上田さんの家には、木星会にオーダーして作った葉っぱ型のダイニングテーブルが。
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宿泊施設「白滝の里」にある大きなテーブルも、木星会のもの。
面白かったのは、とある小学校の依頼で
「子供たちの、椅子に座る姿勢が良くなる椅子を作れないか」
という相談がありまして。
子供って、集中するとおかしな姿勢になっていることがあるそうなんです。
そのときは、3本脚の椅子を提案しました。
脚が3本しかないから、右や左どちらかに重心をかけると、
椅子が傾いて子供が椅子から落ちてしまうというもの。
最初のうち、子供たちはコロコロ転がり落ちていたようなのですが、
そのうちみんな、安定して座れるようになって。
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3本脚の椅子は、座るとバランスを取ろうとして、ちゃんと座ろうという意識が働くのだ。
小学生くらいだと、座って落ち着くまでに時間がかかる子もいるでしょう?
彼らはその「遊びたい!」とか「動きたい!」という有り余った力を、
3本脚の椅子で発散させていたそうなんです。
椅子をわざと左右にガタガタ揺すって、
心を落ち着かせてから授業に集中していたんですって。
揺らしたときになる音は、
脚にフェルトを貼ってあげれば問題ないんです。
現代は、大人が子供たちを「怪我をしないように、安全に」と守りがちですが、
子供は自分で「なんとかしていく」ということを、
学習していくものだなぁと感じましたね。
これは、子供たちが自然と触れ合う時にも、よく似たことがあると思います。
木星会では、今後も提案型の家具を通して、
そんなことも示していければと思っています。
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